八雁短歌会

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新地浩一歌集『戦なき国』自選二十首

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自選二十首
戦なき国に生まれて軍用のヘリコプターで急患運ぶ
 ある特攻隊員への挽歌戦なき国に生まれて教壇に立ちてみたしと言いて還らず
戦なき国に生まれし吾にして十八年を軍医にてありき
賜りし師よりの遺品医学書を送りぬアフガンの診療所まで
被災せし異国の子らのまなざしに時を忘れてわれ診療す
異国にて医療支援をともにせし君の賜びたる桃の甘さよ
由布の野にわが大砲のとどろくを牛はのどかに草を食みおり
「‹雑事徹底›これを至宝と心得よ」石田比呂志の遺言と聞く
生き急ぎ悲しきことも多からん自死せし友は良き医師なりき
胃内視鏡手に取ることもなくなりて光源ひとつわが胸に置く
書きためし死亡診断書のコピーをばシュレッダーにかけ病院を辞す
乳児に泣かれ診療中断す胸の谷間に逃げられにけり
乳児は母に抱かれ泣きやまずS先生も泣きたい夜に
幼子と犬に好かれるS医師の診療続く日曜の夜も
聞きなれぬ言葉流れるレストラン海峡の街に君と語らう
国境を越えて働くナースらが日本語学ぶ肥前の地にて
わが年齢に医官たりたる鷗外の危機感に似し憂いを思う
急患を看終えし吾に全けくも吉事のごとき中秋の月
求秘書国際援助経験者研究指導可但薄給
前職は自衛官でありしこと話すことなど少なくなりぬ

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