八雁短歌会

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松岡晧二歌集『翼鏡』自選二十首

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自選二十首
生きながら蟻に食わるる油蝉脱皮半ばの身を震わする
闘いを終えし鼬が(あか)(かが)()長きを引きて茂みに入りつ
鴨群るる水面突き切り鳰一つ羽搏きゆきて所を替えつ
悪行の果て殺されし東尋坊柱状節理にその名残せり
灯明りの射す裏庭にかまどうま群れて物食う音の静かさ
くちなわは体二重に緩く巻き春の日を浴ぶ眼を閉じて
寂寞とせるモナリザの背景に橋架かりいて生活が見ゆ
木の下に涼を求むる鳩の群れ土に腹部を付けてふくだむ
誰が捨てし鶏か冬田に立尽し水の如かる排便しおり
山裾の人に無用の池広く湧く水ありて魚を住ましむ
二度魚を取り逃したる翡翠が声引きながら飛び去りにけり
白鷺は静かに距離を縮めゆく汀の魚に狙い定めて
日の暮れを鳴き連れ来たる五位鷺の橋を隔てて川瀬に下りつ
塩辛の()()といえどもぬばたまの眼を二つ持ちていにけり
山百合の蜜を吸いいる黒揚羽(もろ)(あと)(ばね)花粉に染まる
菊吸天(きくす)()は殺気察知し新芽より自ら落ちつ根方の土に
毛糸編む妻の傍えに足組(あぐ)まいて『阿Q正伝』読み終わりけり
癌病める隣の犬がよたよたと尾を振りながらお別れに来つ
橋脚に倒木ひとつ掛りいてあらわなる根を宙に拡ぐる
巣立ちする雛に聞かすか霍公鳥幾夜を鳴きて所を替えず

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