自選十首
あまやかにすでに世に亡きこゑ唄ふ夕窓とほく照り映えにつつ
雀鳴くこゑの光とかがよへりまなこを閉ぢて身に容れしむる
窓遠きあけぼののいろいづかたにわが老いはてて漂り着くらむか
どつかりと尻据ゑて尾をひだりにす夜の引き明けの雲見る猫は
春寒の天のはたてのいづくにか市屠らるる夜ごと日ごとに
底ひより見あげて立てりうつすらとくれなゐ滲む空のおもてを
青瑠璃の羽を吹かれて葉のうへに張る脚ぢから 小さく生まる
窓ぎはに横たはりたり夏ぬるきかぜ触れて顔の凹凸を過ぐ
ガラス瓶寄せあつめゆく音きこゆ曇りに冷ゆる空のかなたに
草一葉いのちみなぎらふ力ありそれぞれの影ほそく群れ立つ
Copyright c 2018 Yakari Tanka Kai. All rights reserved.