自選二十首
市街地の路のおもては室内に差し入るやうなふゆの昼の日
腸の痼るがごとき冬のそら高層建築群のうへにて
天頂に青をのこして暮れそめぬベンチに凭れ仰ぎてあれば
暑によどむちまたの路に洗濯機ひくく唸りて渦しぶく音
商品の書物かがやく店内に顔なまなまと鏡柱に寄る
痰唾を足に避けつつ昼たゆく雲のごとくに街なかをゆく
目をあげてふとくらがりにつやつやし柿のお尻を叩いて過ぎぬ
曇天にまなこ疼けりいづくにかたましひ苦しむものあるごとく
地下壁の広告見れば螢光に透く青き波。―青は慰め
水仙を一すぢの香の縒り出でてもの読むかうべ緊めつつながる
夕あかく洞なすそらを建築群せりあがりゆき横雲凝る
街の塵芥吹き寄せられてゐたりけり枯草叢がなかの根もとに
夜の灯にかぎりもあらずむらさきの花大根の四ひらを聴けば
仰ぎつつ歩みをとどむ夕ぞらはいまだも青きひかりながらふ
タデ科またキク科の秋のくさのはな瓶に挿したり曇れる午後に
吹き消すと炎ふくとき蠟燭の炎にちからありて波だつ
雪の吹くひと日はすぎて外壁に螢光灯もさだまりにけり
窓近くせまる青葉の闇揺らぎ流謫の日々のごとくにしづか
自らをいちまいに展べ尽くしたりあぢさゐの葉のひかりの湿り
夕刻のそらをわたりて来る響きあゆみを道にとどめてぞ聴く
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