自選十首
鉄を接ぐ人は見えねど鉄を接ぐ青き火は見ゆ宵の船渠に
白馬が首を垂れて食む草の音はも草の根の切れる音
牛乳車路肩にあれば傾きしままにミルクは平らぎにけり
いっぽんの時間を生きて或るときは出石に蕎麦の皿をかさねつ
鰺焼いている間に今朝を受けいれるそののち深くなる雨の音
バス停に隣るひとりが声にしてみじかく秋の虹を讃えつ
雨やみし盆地に降れるひかりあり街は瀬戸物のごときあかるさ
あなたより若かりしことかつてなしこれからもなし冬の水澄む
わすれた、ぜんぶ忘れた。くすのきは声立てて葉をふるい落とせり
十九世紀最後の春の雨に濡れ薔薇の若芽が待ちし子規の眼
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