八雁短歌会

やかり

永良えり子歌集『水湧くところ』自選十五首

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自選十五首
御雑煮をととのへしあとの俎板に花形人参の切れ端残る
やうやくに芽の出できたる鈴蘭を石置き(しる)す踏まざるやうに
うす墨の色なす太き鯉泳ぐ(しやう)()(ぼり)(がは)水湧くところ
台風に竹の折られて竹叢に隙が生れたりあをぞら覗く
山深き榾木に生るる椎茸はその身に重き湿りを持てり
父死んで叔父叔母死んで母死んでフーガのやうに法事は続く
看護師と介護士の「し」はなぜ違ふ留学生が吾に問ひ来る
去る人へ贈る色紙に餞の言葉は下から埋められてゆく
手のうちに隠るるほどの鉛筆を握りネパールの青年が学ぶ
どら焼きの餡うまかりき地震見舞贈りくるるを貪り喰ひき
ごみ置き場もはや高々積むを見ず地震に遭ひて住人去れば
部屋一つ足すに幾たり職(ひと)の来る寡黙屋根葺き陽気左官屋
結婚し改姓するを疑はず懸想せし名を語りき十代
国電と呼びにしころの心もて水道橋のガードをくぐる
明日には更地に変はる庭に立つ柿の木おもく青き実を垂る

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