自選十首

寄りて見むあまた蕾のなかにしてくれなゐ昏き円(つぶら)のひとつ
いひがたき生きのしづけさひと椀の汁にしづみし蔬菜(そさい)のいろは
そこに在る塊(もの)のこゑにし遵(したが)へと内なる神を見つめしひとは
あたたかな日差しなりけり若干(そこばく)の草の枯れ穂をかぐはしうして
ひとのかげゆきかふ道のへんろ坂しぐれは過ぎてくれなゐの花
明けていまだひかり乏しきうら庭の莿草(いらくさ)の葉を霑(ぬ)らす糖雨
ひとゆきて人また来たり木がくれの朽葉のにほふ昼の暗道(くらみち)
いしみちの峻(さが)しき坂をのぼり来て芽吹きのまへの一樹に逢ひぬ
銀の匙ぎんのひかりに透りつつおのが光(かげ)にぞ蔵(しま)はれにけり
いましばし蒼くし湛ふ冬海のこのすなおかに逼るゆふばえ