自選二十首
樫の実のひとり人をしおもふ身のあまつひかりの樹間をあゆむ
檜林の秀にあらはれてたち仰ぐむらさきこゆき山藤の花
夏さればきよら流れの滑石にわれは鮎釣るその床石に
ひさかたの光に音のあるごとく石をうちつぐ雪解のしづく
ほがらかに過ぎゆきにけり丸刈りの男の子に女の子が傘さしかけて
傘の柄に枝をたわめて採る桑の黒きつぶ実は指をよごしぬ
満月の瀬のかがよひに打つ網に鮎はとるなりとほき一人に
庭のべの小草は花に萌えいでて猫ゆうるりとほの噛む五月
柄のくろく巻いて小さな傘ひとつ昨夜よりここの傘立てにある
竜胆は平瓮に添へてあるものをさし延べてほそく鮎ほぐす指
椿象は交尾のままに死んでをりかたみに外へ引きあふやうに
わが猫を葬りし庭の土盛りを教へて春の雪は積むなり
玄関の隅にひらたき女靴置かれてひとつ 喪の星明かり
まろびきて白々そよぎあるものを兔の耳とまがふ初夏
瀧つぼに龍の穴ある謎さへやとけてうすれて消えてゆく村
街の蝉浴びて還れるわが背なに染みて夕べをかなかなの鳴く
湧く水にいまだも眠る潜在のいのち汲み出だす歌をこそ欲れ
やぶ椿の一花しだるるそのかみの農村歌舞伎の礎石の上に
発電の神と斎かむ天照大神 ソーラーパネルの居並ぶ丘に
人の死をかなしびきたるわが脳をひとゆすりせり朝の地震は
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