自選十首
さまざまなわれを束ねてわれはあるわれのひとりが草笛を吹く
夕星のとほく輝く土手のうへわが身をほどく風に吹かるる
してるのにしてないふりをしてゐてはしてゐることをしかと語れず
艸といふ文字を余白にあまた書き草原となす風の吹く日は
卓上のあかりおとして窓へ向くゆたけき春の闇を見むため
音たてぬ楽器のごとくねむりゐる君を毛布にくるむ朝明け
のぼる日に朝の大気はゆるみたり正方形に薔薇はひらきぬ
蒲の茎立ちたるところ日の差して水の面のはつかにくぼむ
かたはらに友呼ぶごとく一脚の椅子を据ゑたり月明かき夜は
いつの日か還りゆくべき空にして擦り傷のごと雲のかかれる
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