自選十首
ひろげたるつばさの内らほの白く下り来るなり春のくもりを
遅き日の曇る日くれてわれひとり居るこの部屋に菜の花零る
風出づる青葉の路に追憶は流れくるなり愁へとなりて
木ぬれ照らす月のひかりはわれの立つ地面にふかく影を彫りたる
かすかなる風ともなひてかたはらの椅子に座りぬ待ちつつゐれば
上り坂曲がればまたもゆるやかに坂のつづきてかぎろひのたつ
はた薄なびくを刈りて一束を瓶にし挿せば穂の立ちあがる
蛇口より落ちくる水を茄子の実はむらさきふかくつややかにせり
冬ばれの町に出で来て硝子器の店に四角の皿を買ひたり
木垂る枝の青葉はつゆの雨に濡れゆたけく動く路の欅は
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