自選十首
冷えしるき曇天の下びしびしと縄飛びの音鋪道にひびく
堤防を犬ひく人の過ぎしのち烏歩めり弾みながらに
のぼりゆく館山城址の近道に聞こえて清しうぐいすの声
この夏を母親となるわが孫の肩にし降るさくら花びら
花を見てもどりゆくなりわれはわれの娘は娘の生活の場へ
葉の影が揺れつつ障子窓の枠ひとつ移りて夕方がくる
前の夜飲み込めぬまま口中に残し逝きけり白き一錠
桜もみじ欅のもみじ光りつつ降る道をゆく漂うごとく
浸みいでて伝うながれに濡れにつつ落葉溜まれる沢のくらがり
豊かにもくちなし咲く暮れ方のとめどもあらず夫を思いて
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